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378 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/02/14(木) 23 02 30 ――Interlude 一閃。 迫り来る異形の豪腕を撥ね退け、煌く刃を隙だらけの横腹に叩き込む。途端、分厚い筋肉に守られていた胴は水道管が破裂したが如く赤い水流を奔出させ、剥き出しに突き出された私の鼻面を容赦なく穢す。 戦場。重ね合う怒号。剣戟。 戦場。重なり合う骸の山。死臭。 ここは冬木では決して目にすることがなかった、けれどもかつては見飽きるくらいに目に焼き付けていた、戦場の光景に相違なかった。 続けて二匹目のトロール――――伝承として伝えられる妖精としての風貌は微塵も見受けられない、筋肉の塊――――が勇みたつ私を殴殺するべく棍を振り上げて突進してくる。 巨体、といって侮るなかれ。彼らの瞬間速度は常人のソレを遥かに凌駕し、幻想の類に相応しい凶悪さで重厚な鎧に真空を纏い、突貫して来ているのだ。その様は喩えるのならば列車を人型にまで縮めた風体か。運悪く暴走列車に轢かれた傭兵は、ぐちゃりと嫌な音を響かせ、すぐ横を10数メートル彼方まで吹っ飛ばされていく。 まともに受け止めれば英霊たるサーヴァントとて彼と同じ末路を逃れられまい。だが――だが、しかし――――。 「うお、オオオオオオオオオッ!」 胸の内に昂ぶるは灼熱の炎。 自らの倍に匹敵する怪物の巨身を難なく避け、擦れ違いざまに手加減抜きの薙ぎ払いを加える。外皮の堅牢さとは裏腹の柔らかい手応えが刀身に響き、刹那、怪物の腹から噴出した、やはり赤い液体が白銀の鎧を染めた。 刃に纏わり付く腸と血を振り払い、一匹でも多くの命を斬り殺す。 斬っては剣を振り払い。斬っては剣を振り払い。 ――――なんて単純。 なるほど、これは互いの名誉を競う決闘ではない。正しく私が見識として有する戦場の姿に他ならないではないか。 「オイ、騎士王殿! 突っ走りすぎだぞ!?」 誰かが叫んだ。知らない。五月蝿い。聞こえない。 先程から否応なしに込み上げてくる嘔吐感を必死で飲み込み、一秒も惜しんで剣を振るう。まるで鮮血のシャワー。敵から流れ出たモノだけじゃない。コレには熟したトマトのように潰れた味方のモノも含まれていた。 「うっ、う……」 糸を引くのではないかと思うくらいベトベトに穢れた髪。噎せ返る鉄錆の臭い。 今、自分がどれだけ汚物に塗れているかを自覚した途端、腹中に抑え込んでいた濁流は遂に咽喉元にまで上り詰め、不覚にも戦場の只中だというのに膝を屈してしまう。 なんて油断。なんて愚か。 万が一にも絶好の隙を晒した難敵の背中を見逃す訳がなく――――いつの間に傍に居たのやら、黒い……現代に甦った恐竜としか呼べない巨大な体躯をした犬が、三つ首の内の一つを以って私の胴に齧り付き、軽々と天上まで持ち上げる。 「ガ……っは。ケル、ベロ……?」 地獄の番犬。冥界から逃げ出す亡者をその獰猛な牙で貪り喰らう、冥界の神、ハデスの忠犬。 何故そんな狂犬がここにいるのか……なんて、最早不思議事でもなんでもない。ここは幻想の具現。神話の世界。現にヴァルハラの騎士に私は……。 「ぐあっ、ア――――!?」 思考に耽る暇もなく、一メートルにも達するであろう規格外の牙が、魔力で編まれた鎧をキャラメルか何かのように噛み砕いていく。次いで鎧を貫き、胸板へと吸い込まれていく先端。 薄れゆく意識の中、数人の傭兵達が私を救出してくれようと奮戦している様子が視界に映るが、当の狂犬は二つの首とトカゲと見紛うかのような尻尾で迎撃に当たり、意地でも牙を離そうとはしない。 ごぷり、と閉じた口から血泡が漏れ出る。 死。 何ともつまらない死に様。 私には三つ首を纏めて締め上げるだけの腕力もなければ、殺意を消し去る銀の竪琴もない。――ましてや幾度もの戦場を共にしてきた愛剣すらない。よって、残された道は死、のみ。 目的を果たせずに朽ちる己の不甲斐なさに涙が浮かぶ。せめて最期にあの少年の姿を思い浮かべ―――― 「投影、開始」 ――――そんな、懐かしい、愛しい言葉を聞いた。 数瞬の間を置いて、体躯は悪意ある暴力から、優しい、しかし限界まで鍛え抜かれた逞しい腕の中へと移り変わる。それは確かに、記憶に刻まれた少年の匂いに相違ない。 「シロ……」 「セイバー」 頬に一粒の雫が線をなぞる。 目一杯の安堵が胸に広がっていくのを見定めた直後、私はゆっくりと目を閉じた。 ――Interlude out. アーチャーは…… Ⅰ:カッコ良くあるべき(寝取られフラグ+1) Ⅱ:カッコ悪くあるべき(私達は友達ですよね?) 投票結果 Ⅰ:3 Ⅱ:5
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926 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2007/12/08(土) 01 27 22 「さて、2人待ってるって言っていたけど……む、あれかな?」 それとなく目に付く2人組の姿が視界を捉える。 当初は猫人間とチビ人間で混雑する広場のお陰で探索は困難に思われたが、しかし意に反し容易に目的を達成することができた。 理由は二つ。 一つはその2人組が何より目立っていたから。彼女らの周囲をあからさまに人が避けて通っており、小さな輪を形作っているのだ。 彼女らは今日が初対面なのだろうか? 噴水の縁に腰掛ける互いの距離は微妙な位置で固定され、その口は固く一文字に結び、異様な雰囲気を漂わせている。これからこの2人と一緒に旅をするのかと思えば、周りの皆様方と同じくちょっと憂鬱になってくる。 理由の二つ目は……実に単純。片方の人間が俺の見知った奴だったからだ。 ここまでくれば結論は誰であろうと同じ筈。迷うことなく歩を彼女らの前へと進ませた。 「よっ、久しぶり」 「アンタは…………って、何、その頬……」 かつて同じ船旅をした、遠坂似で泥棒である少女の顔が痛ましく歪む。同じく隣に座っていたヒュームの女性も、声こそ出さなかったが、驚きに目が見開かれている。 再開はできる限り美しく、爽やかなものが望ましかった。だがこうも華々しい伊達顔にされては誤魔化しようがない。網で焼いた餅のように、あるいは虫歯を患った者の如く。真っ赤に焼きごてされた手形を中心にして頬がぷっくらと膨らんでいたら、そりゃ突っ込まずにはいられないわな。 「いや、誤って凶暴な蜂の巣を突っついちゃってさ……。それより偶然だな。君とその子が一緒に旅をするっていう?」 「え、ええ……。いや、触れて欲しくないのなら触れないケド。ちゃんと説明はされてる?」 「うん。えと、その子も、だよね?」 「…………」 傍らの少女は何故だかだんまりを決め込み、こちらを見つめてくるに留まっている。 歳はそれほど俺と変わらない……と思う。緊張しているのだろうか? 無表情でじっとこちらを凝視されると、正直どぎまぎして落ち着かない。 顔は……流石にセイバーやライダーみたいな絶世の美人と比べると凡に貶めてしまうが、それでも結構可愛い。美しい、じゃなくて可愛い。丸い、愛嬌のある目は、見ていて微笑ましい。髪型はショートカット。服装は周囲の冒険者のように鎧兜で武装している訳ではなく、至って平凡な布の服。ズボン。その華奢な体格は、どう見ても荒事に耐え得るだけの頑健さは備えているようには見えないが……。 そして最大の特徴。大地を跋扈する獣人に襲われたのか? 彼女には左腕が肩口からスッポリ消えていた。何も通っていない袖のみが、重力に従いダラリと垂れている。ほぼ反射的に慰撫の言葉を探すが、流石にそれは自分でも偽善なのだと理解しているのでやめた。 とにかく喋らないことには始まらない。少々安易ではあったが、まずは自己紹介から始めるべきだ。会話がないままではこれから先、身がもたない。 「え、えと、はじめまして。この度はご一緒させていただく衛宮士郎と申します。趣味は……えと、特にはありません。特技は料理です」 対する彼女は無反応。 ……いかん。安直だと覚悟はしていたが、これでは自分が道化のようではないか。やましいことなどない筈なのに、何故だかとっても恥ずかしくなってきた。2人が会話もせずに微妙な空気に浸っていたのも、彼女がこんなだったせいだからかもしれない。 なけなしの勇気を振り絞って突貫したが玉砕し、半分鬱になりかけた時。同様に何とかこの空気を打破したいと願ってくれている仲間がフォローを入れてくれた。 「へ、へえ。アンタの名前、エミヤシロウってんだ。今更だけど初めて知ったわよ」 「あれ、言ってなかったっけ? へへ、可笑しいな。結構顔見合わせている筈だってのに。そういや俺、お前の名前全然知らないぞ」 「ありゃ、名乗ってなかったぁ? ふふ、私は……」 Ⅰ:「バタコって名よ」 Ⅱ:「リンって名よ」 Ⅲ:「カロココって名よ」 (無口な彼女は……) Ⅳ:久織巻菜と名乗った Ⅴ:石杖所在と名乗った Ⅵ:久織伸也と名乗った Ⅶ:カレン・オルテンシアと名乗った
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カプコンがSFCで発売したベルトスクロールアクションゲーム『ファイナルファイト2』のラスボス。 スト1に出てた少林寺拳法使いの坊さんと同名だが、全くの別人。一見すれば見間違えようのない歌舞伎っぽい格好の巨漢である。 •身長:225cm •体重:205kg •血液型:B •誕生日:5月10日 •出身国:日本 •好きな物:権力 •嫌いな物:武神流 (シャドルー格闘家研究所より) マッドギアの残党で、ベルガーが倒された後に何故か 世界各国に拠点を築いて「新生マッドギア」として蜂起。 どこにそんな勢力があったんだ。 ガイの師匠・源柳斎と、その娘でガイの許嫁・麗奈(レナ)を誘拐する。 その時ガイは修行に出ていたため、麗奈の妹・真紀(マキ)はハガーに助けを求める。 さらにタイミング悪くコーディーはジェシカと海外旅行中で、ハガーは居候の助っ人・カルロス宮本を伴い、マッドギア残党との戦いに挑む。 香港、フランス、オランダ、イギリス、イタリアと転戦したハガーたちを最終ステージの日本で待ち受ける。 対戦前にふすまが開いていく演出で登場し、竜巻旋風脚で襲いかかってくる(リュウたちの流派との関係性は一切不明。波動拳や昇龍拳は使ってこない)。 烈を倒すとベルガーと同じく画面外に落下するが、彼のステージは高層ビルでは無く日本の邸宅なので転落死するデモは存在しない。 マッドギア崩壊後に立ち上がった残党となると『ストリートファイターZERO』シリーズでのソドムやロレントを思い浮かべるが、 烈が率いる「新生マッドギア」とソドムが率いる「魔奴義亜(まっどぎあ)」の行動は連携が取れておらず、 それぞれ別個にマッドギア復活に向けて行動していたようである。 というのも、『ファイナルファイト2』と『ストリートファイターZERO』が同時に並行して行われ、 その後『ZERO2』に続いていくと考えると ほぼ完全に辻褄が合うのだ。 『ファイナルファイト』 コーディー、ハガー、ガイがマッドギアを滅ぼす ↓ ↓ 『ファイナルファイト2』 ガイは日本で修行コーディーは海外旅行ハガーが登場マキが登場ソドムは不在烈が集めた「新生マッドギア」の構成員は一部を除いてほぼ全員新人ロレントがこちらの5面ボスとして登場 『ZERO』 ガイが登場。地元ステージは日本背景にコーディーとジェシカらしい人がいるハガーはいないマキはいないソドムが登場ソドムが集める「魔奴義亜」のメンバーは全員旧構成員ロレントは不在 ↓ ↓ 新生マッドギア崩壊メトロシティはしばらく平和に(その後、マッドギア下部組織「スカルクロス」が台頭する) 『ZERO2』 ガイ引き続き登場ステージ背景にハガーとコーディーがいるソドム引き続き登場ロレントが加わる ……と、このようにうまく繋がっている訳である。 『ZERO3』で思い切り設定矛盾が起きてしまうけど MUGENにおける烈(ファイナルファイト2) はにゅう丸氏が制作。 原作の技を用いる。……が、パンチと竜巻旋風脚しか技のバリエーションが無い。 ベルトアクションらしく軸をずらす行動も取り入れられているが、餓狼伝説のライン移動のような感じで奥に移動→元のラインに戻ってくるまでが 一動作にまとめられていて、軸をずらしたままずっと粘り続けることはできない。 前後移動が小ジャンプになるという迷宮寺院ダババ原作再現仕様で、 ガードしようとして後ろに入れただけでちょっとジャンプして食らってしまう。 相手が出してきた技が「地上ガードも空中ガードもできる技」だったらまだいいのだが、「地上ガードはできるが空中ガードはできない技」だった場合は悲惨である。 AIはデフォルトで搭載されている。 登場演出のために専用ステージが同梱されている。 出場大会 「[大会] [烈(ファイナルファイト2)]」をタグに含むページは1つもありません。
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58 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2007/12/25(火) 02 45 25 願い事――――。 ネガイゴト? それは聖杯を手中に収めること? それは滅亡の憂き目を見た、我が王国の救済? …………違う。違う。 願い事は、ただ一つ。 今私が最も叶えたいコト。それは―――― 「シロウ」 まやかしでもいい。 貴方の姿を見るだけで、嬉しかった。いつも笑ってくれるだけで、救われていた。 いつも傍らで私を支えてくれた、あの無垢な少年の姿。 「――――シロウに、会いたい……」 涙が出そうになる程、切に願う。 瞬間、視界が黒に染まった。 ――――――――――――――――――。 そこは夢か現か。 「え……」 視界を侵す闇は消えず、未だ光をもたらさない。 それでもよく目を凝らしてみれば、うっすらと、何かが見えた。 船だ。 現代にある鉄造りの船ではなく、ブリテンの時代に活躍した、木製の船。だがこの荒廃の様は、どういう事実を示しているのか。 周囲には船が3隻。そして、足元に1隻。 でかい……。キャラック級はある。しかしその一方で、剥がれた甲板にボロボロのマスト。完成直後はさぞ立派であったろう威容は、今や醜いジャンクへと成り果てている。 人の気配は……ない。人はいない。 恐らく、ここは船の墓場か。嵐、もしくは不法投棄で流された船が潮の流れにのり、一箇所に導かれてきたのだろう。人から見捨てられた建造物の群れからは、一種の悲哀さが漂っている。 知らずと周囲の哀しみに心が押し潰され、世界が自分以外いなくなってしまったかのような錯覚に囚われてしまう。いくら英雄であろうと人間。こんな場所にいつまでもいると、気が滅入ってくるのも道理。早く脱出しよう。 愚鈍な頭を振り、どうやってここから遠ざかるかと考える。 ――――だが後に、私は大いに後悔することとなる。 最初に『どうするか』ではなく、『何故ここにいるのか』が出てこなかったことに。木製の船は、生前の私にとって何よりも自然な物だったのだ。 ふと、何気なく視線を船首の方へ向けた時。 「!」 馬に跨った、白い甲冑の騎士の姿があった。……まるで幽鬼のように。 「貴方、は……?」 にべもあらず。騎士は馬の横腹を蹴り、こちらへ向かって突進してきた。右手には包丁と見紛うばかりの無骨な剣。 「いきなり何を!?」 間一髪。剣は金色の頭髪を数本切るだけに留まり、数間先へと過ぎ去っていく。斬られた髪が、潮風に乗って彼方へと飛んでいった。 頭全体を覆う兜に隠れ、騎士の表情は読み取れない。 当の私はとうに魔力の鎧を編み、不可視の剣で間隙なき構えをとっている。心拍も正常。もう油断などしていない。 「我が名はセイバー! 貴公が何故私を襲うかは定かではありませんが……まず御名は如何に!?」 鎧姿の騎士は無言でこちらを凝視し――低く、腹の底から捻り出したかのような声で、ぽつりぽつりと言葉を紡いだ。 「死 にゆく 者に…………語る名 はなし」 「……そうですか。残念です」 その様は、まるで死人が口を開いたかのようで、少し気持ちが悪かった。 しかし直感が告げている。目の前の敵は強い、と。どれくらい強いかといえば――――今まで剣を交えてきた者達の中で、最強、くらい…………。 勝てるだろうか? これほどの強敵を前にしているというのに、脳を占めているのは歓喜の感情ではなく、最悪な結末のイメージばかり。 まず馬がある。幻想種の域に達しているであろうそれは、先程と同じく圧倒的な馬力を以って私との間合いを詰めるだろう。次に無骨に生えた刃。一閃が私の胸当てを綺麗に寸断し、布切れを裂き、肉を破ってはらわたを断つ。正に斬鉄のキレを有しているに違いない。 馬に乗っているから、だなんてハンデの言い訳にすらなっていないだろう。もっと根本的な…………まるで人と神のような大きな隔たりが、私達の間にある。 ……頭頂から流れ出た汗が、こめかみを通って首筋へと垂れた。 「スレイプニル。あれ だ。審判の日を待 つまでもない。……行け」 「――来るかっ!」 「我が 秘剣で 断ち斬らん」 Ⅰ:宝具を解放して迎撃 Ⅱ:剣を盾にして受け流す Ⅲ:回避することに全精力を傾ける Ⅳ:これは夢だ
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751 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2007/11/24(土) 16 10 33 「これで最後、か」 メモに記された物も買い終わり、特に寄り道する予定もなく帰路についた…………のだが。 一陣の風に乗って運ばれてきた、思わず食欲を刺激される香ばしい匂い。コンマ数秒で発生源を嗅ぎ分ける。そうして条件反射で振り返った先には、赤い幕が張られた屋台があった。今川焼きだ。 「……ゴクリ」 当然の反応として、口内に涎が溢れる。果たしてシロウが行方不明になっている今、本能に促されるまま美味しい物を食べてしまえば不謹慎の汚名を被ることになるのだろうか? だがタイガは言っていた。余ったお金で好きな物を買って良いと。ならばこれは自らの労働に対する正当な報酬ではないか? 時間は夕方、夕食前。丁度お腹が減ってくる頃合いだ。 ――迷うくらいなら食べてしまえ。 そう決めてしまえば早いもので、考えるよりも先に体は動いていた。――と、ふと前方にサラサラはためく紫色の長髪が目に入る。これは……。 「サクラ」 「あっ、セイバーさん。こんにちは」 何とも奇縁である。サクラも私と同じく今川焼きを買うべく並んでいた。やはり彼女も焼けた小麦と餡子の織り成す絶妙な美味に魅せられたのだろうか。これには幾戦もの戦場を経験してきた私とて抗えぬ誘惑なのだ。彼女が逆らえなくとも無理はない。 むしろ同士を見つけた気分だ。食欲にそそられた自分を恥じらい頬を染める様には、思わず微笑すら浮かべてしまう。 「こんにちは、サクラ。貴女もお買い物ですか? 奇遇ですね」 「ええ、そうなんです。といっても皆さんが食べる分じゃなくて間桐家で賄うものですけど」 ふと半透明のビニール袋に視線を落とす。 ……何故か袋一杯に缶詰と食パンが詰められているような気がするが、それは気のせいだろう。多分。 「今川焼き、好きなんですか?」 「そ、そうですね。屋台で出されていると、ついつい買い食いしちゃいます。本当は控えたい所なんですケド」 「別に気にする程の体型ではないと思うのですが……」 「セイバーさん、それは禁句です」 その後も喋りながら歩いている内に、自然とサクラとデートという形になっていた。もちろん私が男という設定で。女性をエスコートするのは実に二回目であるが、最近ではこういうのも悪くないと思える程度の余裕が持てていた。 色々なことを話した。シロウのこと。リンのこと。間桐のことにわかめのこと。自らに優しくしてくれた叔父のこと。私が経験した王としての責務、そして幾度もの戦争があったこと。 私自身一言も聞き漏らさないよう留意したが、サクラも私の話を真剣に聞いてくれた。 思えば私とサクラが2人っきりで話す機会は中々得られることがなかった。したがってお互いに知らないことがたくさんあって、その分会話が弾んでいたりする。 「セイバーさんっ♪」 「サ、サクラ、腕に柔らかいモノが当たっているのですが……」 「あててんのよ」 商店街を抜け、公園を抜け、異人街を通り、坂を上って学校の門に着く。これといって目的地を定めていた訳ではないので、どこに行くともなく流れ、最後に暗くなった頃には新都へと続く橋の上に立っていた。 「んーっ、夜風が気持ちいいなあ。そろそろ寒くなる季節だから余計に名残惜しいかな」 風が私とサクラの2人の髪を揺らす。空を見上げれば、金色の光が世界を照らしていた。 「……そうですね、少し名残惜しい。サクラ、今日はありがとうございました。貴女のおかげで久しぶりに楽しい思いができた」 「気にしないでください。私もこんなに楽しかったのは久しぶりだもの。お互い様です」 始まりがあれば終わりがある。それはどんなものでも逃れられない宿命。 ――それに。 手に提げたままの買い物袋。 マズイ、タイガがお腹を空かせて待っている……。 「すっかり遅くなってしまいましたね。帰りましょうか、サクラ」 「そうですね。私の家では兄さんとお爺様が待っていますし……」 「それでは――――」 Ⅰ:そのままサクラと別れた Ⅱ:橋の真ん中で遮る様に佇む三枚目の武芸者がいた Ⅲ:炎を纏った赤い獣が現れた
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31 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/03/12(水) 00 06 33 「いきなり何言ってんのさ。来いよ、巻菜」 あっさりと。 気付けば、自分でも正直どうかと思うくらいに、口が先に動いていた。 「ハ――――、本当に、いいの? 私、皆の足、引っ張りまくっちゃうよ? そのせいで全員死ぬことになっても、責任持たないよ?」 「ご自由に。俺が来いって言ったんだから、どうぞ気兼ねなく、胸を張ってついて来たらいい。 ま、本音を言うと、今更いちいち訊ねて欲しくはなかったケド。 ……それに足手纏いのレベルで語るなら、俺も大言吐けるような立場じゃないしな」 言い終え、出来る限り爽やかな笑みを浮かべて話を締め括る。 嘘偽りの無い答え。決して短いとは言えない時間を共有してきた、仲間への想い。 ……だが、当の彼女にとっては琴線に触れる行いに値したのか、苦難に満ちた顔はよりいっそう苦渋に満ち、 こちらの姿を射抜く視線には、鋭い険すら含まれていた。 「……ふざけないでよ」 「ん?」 「バッカじゃない? 状況を考えてよ、状況を。 普通に考えたら、魔王の居城なんかに村人Aを連れてく馬鹿、いないでしょうに。 何なのアンタ。脳みそ腐ってるの?」 「えっ? ゴメン、ひょっとして行きたくなかった?」 「――だからっ!!」 巻菜の怒号が暗く静かな倉庫に響き渡り、油断しきっていたこちらの耳を容赦なくつんざく。 いったい、彼女は何に憤り、何を求めているのだろう? 苦しみに喘ぐ顔を恐る恐る窺えば、そこには確かに存在する脱却への願望。 彼女は、俺に何をして欲しいのだろう? 「ホント、アンタって徹底的に壊れているよね。こうまで壊れていちゃ、模倣なんて絶対無理……。 むしろ救えないのは貴方の方だよ。私が模倣を諦めた、三人目の怪物さん」 「はぁ……どうも」 「ぐっ! だからっ、私は――――!」 「よくわからないけどさ、巻菜。要するに俺は――――」 いつだって正直に、体当たりで。 狭量で不器用な衛宮士郎に出来ることといえば、その程度のこと。 ……ゴメン、切嗣。俺、全然女の子に優しくないかも。 「――――お前に居て欲しいって思ってるんだけど。それじゃ、駄目なのか?」 「――――…………」 彼女の言うとおり、単純な労働力や腕っ節という面で捉えるのならば、巻菜は少々頼りない。 だがそれ以上に受け取ってきたモノがある。大切な想いがある。 紛うことなどあろう筈がない。久織巻菜は、間違いなく俺の仲間だ。 「……ハハ、何それ。アンタにはカレンがいるじゃん。 何? 二股かけようって腹? その歳で愛人でも欲しいの?」 「馬鹿、失礼な奴だな。それとも聞こえなかったのか? 俺が来いって言ったのはな、二人とない、俺自身がお前を必要としているからだよ。 だからさ、一緒に来て欲しい。巻菜が良ければ、だけど」 「…………」 濁流の如く無限の言葉を紡ごうとも、最早それはただのノイズにしか堕すまい。 故にもう喋らない。どう行動するかの決定権なんて、もとより本人以外には持ち得ないのだから。 しかし――――。 「…………」 「……巻菜?」 俯く姿勢は、道端に佇む地蔵に劣らずに固く。 着々と時間が進んでいく中、巻菜は驚くべきことに、まるで微動だにしなかった。 募る不安は、ただ脈々と、容赦なく。 狼さえも固唾を飲んで見守ろうかという切迫した状況の中、 ふと、黙した姿勢を保ち続ける彼女の背から『白い』物体が這い上がり、 空気を読まず、肩越しに顔を出す間抜けの愛嬌。 白い――――本当に、染み一つなく、白いナニカ。 一片の予兆もなく起きた怪異に心奪われ、本人に声を掛ける暇などあろう筈もなく。 ソレは問答無用に俯く彼女の身体を徐々に這い―――― 気付いた頃には、無い筈の右腕が『白い』右腕となって肩口から生えていた。 直後、五指はワナワナと動きだし、遂には完全に血が通いきったらしく、肘を曲げ始める有様。 「それ、は――――?」 「歓喜(仮名)ちゃん。とある悪魔から餞別として貰った義手なんだけどね。 使う必要もないし、第一窮屈だから埃を被せていたのだけど…… でも、隻腕のままだとこの先不安じゃない? せっかくだし、使わせてもらおうかなって」 「へ、へえ。最近の義手って、進んでいるんだな」 馬鹿な。そんなワケがあるか。 それでも自身の狭い頭では理解に到ろう筈もなく―――― 混乱に喘ぐ様を満足そうに悦と変え、巻菜は芯の通った声で宣言する。 「改めてよろしく、士郎。女ったらしの貴方だけど、必要としたからには、きちんと責任とってよね」 是非も無い。 呆けた頭では、鸚鵡返しをするのが精一杯だったのだから。 Ⅰ:これから乗り込む者 Ⅱ:もう既に乗り込んでいる者 Ⅲ:出番のない武芸者の出番 投票結果 Ⅰ:1 Ⅱ:2 Ⅲ:5
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341 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/07(水) 00 34 04 再び。 まどろんだ意識は醒め、心は現実へと呼び戻される。 今度こそ頭部に触れた柔らかさが確かな布のものであることを確認し、それでも万が一のために、これがただの布でありますようにと祈りながら瞼を開ける。 そこには。 「——えっ?」 数人の子ども達がベッドに身を乗せ、衛宮士郎を凝視していた。 「う————」 「うわあっ! 起きたっ、起きたよう! 逃げろ〜〜!」 子どもらは俺が目を覚ましたのを確認すると、慌てて我先にと外へ逃げていった。その間、実に5秒。 思わず口を丸くする。 まず浮かんできたのが、「何だありゃ?」という台詞。彼ら(彼女ら?)はこちらが悲鳴を上げるよりも先に怯えだし、あろうことか本気で逃げ出す始末。 本来ならこの状況に混乱している所だが、予想外の展開に脳は覚醒し、お陰で辺りをしっかりと確認できるほどの冷静さを取り戻していた。 まず首を左右へと見渡す。ここはどこかの家の中だ。木とレンガの割合が半々で、かつて住んでいた純和風の建築とは趣を異にしていた。心なしか柔らかい空気を感じる。 周囲へ向けていた視線を手元へと移す。なるほど、自分はベッドに横たわっている。体にはシーツがかけられ、枕もフカフカしていて気持ちがいい。自分をここに寝かせてくれた人には感謝せねばなるまい。 ふと自然に目は自らの腕へと集中した。途端、大きく跳ねる心臓。 ぐるぐるに巻かれた包帯。ソレは怪我をした場合、確かに自然な処置ではあるが……しかし、普通と比べて明らかに奇妙な在り方をしている。しかも俺はソレに見覚えがあった。 「——カレン」 両の腕に巻かれた包帯は、赤かった。ただしそれは血で染まったからではない。元々そういうカラーリングをしていたから赤いのだ。 聖骸布————。 この世界にもあるのかは知らないが、聖骸布を見てそう直感できる。これは彼女が巻いてくれた物だ。丁寧な結び目を見る限り、あの毒舌の彼女の姿を連想し難いが……。 そう思い当たれば結論は早かった。 会おう、彼女に。 そうして体を起こすべく腕に力を込めるが——数センチ持ち上がった腕は、しかしすぐに力なくダラリと垂れた。 「いやあねえ……。下品ったらありゃしない。そこの貴方、怪我人は大人しくしていることが仕事でしてよ。分を越えた行為には相応の酬いがつきものですわ。わかったら見苦しい真似などせずに動かないでいてくださいませ」 ギクリと身を震わせ、顔を扉の方へと向ければ……だがそこには3頭身の、可愛く髪を結んだ金髪の子どもが立っていた。その身を包んでいるのは子どもらしからぬ黒い法衣だ。 「えと、お嬢ちゃんここの家の子? 突然お邪魔しちゃってゴメンね。今、お父さんかお母さんいる?」 「…………わたくし、ブチ切れますわよ。わたくしが10の指で数え切れる程度の歳だというのならば、貴方なんて父親の(ピー)の(ピー)ただの(ピー)でしかありませんわ」 「………………」 なんて下品な言葉を使う子だろう。 よくわからないが、彼女はこの家の子どもではないと言っているのだろうか? 「……そうそう、忘れていましたわ。はじめまして、わたくし、シャントットと申します。ウィンダスの研究者をしておりますわ」 「ん? 研究者? しかもウィンダスだって? ……あっと、俺は衛宮士郎って名前だ。よろしく」 「よござんす。時にエミヤシロウとやら。貴方の懐に入っていたあの水晶。今はそこの机の上に置いてありますがね、少しの間貸していただけませんこと? アレには少々気になることがあるんですの」 水晶……。 軽く周囲を見渡せば、なるほど、すぐ傍の机の上に煌く輝きが丁寧にもハンカチの敷かれた上に置かれている。 だが、貸す、とは……。 そもそもあの水晶は俺の所有物ではない。少女が持っていた物だ。俺が勝手に人に貸すなどあり得る筈がない。 それに……。 少女が残した水晶を手放してしまえば、もう二度と彼女に会えないようで……。別段これは俺の感傷に過ぎないが、しかしどうしてもその行為に及ぶのは躊躇われた。 「宿泊料と治療代だと思えば安いものですわ。そう案ずるまでもなく、すぐ返しましてよ。わたくしに渡さねば……当然、すぐにでもここを出て行ってもらうかもしれませんわねぇ。オホホホホホ!」 「ヒデェ……」 Ⅰ:貸す Ⅱ:貸さない
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244 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/01(木) 22 49 46 戸惑う俺をよそに、聞き慣れない、不快な音調が飛び込んできた。 音源は、上。甲板だ。 何も考えず、発作的に上へ通じる階段を上り、表に出る。 寂しい木造の部屋を抜けたそこには———空一面に広がる闇と、真珠の如くきらめく緑色の月があった。そして穏やかな波の音と、肌を撫でる優しい潮風。 ……不覚にも一瞬、自分が衛宮士郎であることを忘却の彼方へ見送ってしまう。慌てて自分を取り戻す。 だが一見完璧に見えるこの空間には、しかし、不協和音を成すノイズが織り込まれていた。小さな小さな雑音。さっきから聴こえるこの音の正体は———。 「———莫耶」 一人の少女が漏らした嗚咽だった。 少女は俺の姿に気付き、慌てて涙を拭って、その場を取り繕うようにして笑みを浮かべる。それでも赤く腫れた目元は誤魔化せない。 「……どうした?」 出来る限り優しく、穏やかに尋ねる。 これ以上、少女を傷つけることがあってはならない。悲しみで歪んだ顔なんて、俺は見たくない。 「どうした、って……。別にどうもしないぞ。ただ寝付けないから夜風に当たりにきただけさ」 「そっか。気持ちいいよな、ここの風。丘の上じゃどうしても砂塵やら何やらの不純物が混じっちゃうけど、ここだと純粋な風が吹く。ひんやりしてて気分がいい」 幾分かの呼吸を置き、無言に陥る。 気まずい無言じゃない。お互い何も喋っていなくとも——それでいて心地よい空気。 本来なら俺は見ちゃいけないものを見てしまったのかもしれないけど、それでもそれを全く感じさせない。全てを持っていってくれるこの風には、感謝するほかあるまい。 ふと海面を見れば、魚が一匹跳ねた。 ———覚悟を決める。 俺自身はどうでもよかった。彼女がどこの誰であろうと構わなかった。彼女の出生が明らかになって、それで態度を変えるような奴じゃないって、最低限自分を信じている。 それでも見てしまったのだ。彼女の涙を。 ……さざなみが、沈黙を彩る背景と化す。 いくら俺が鈍感と呼ばれようとも、彼女が普通の人間じゃないってことには薄々感づいている。彼女はいつも何かに追われていた。別段どこがおかしいとはいかないまでも、彼女はずっと憔悴していた。 限界だ。自分を誤魔化すのは、止そう。いつも彼女の背後にあった『何か』をこれ以上見過ごすわけにはいかない。 「なあ、莫耶。教えてくれ、君は一体————誰なんだ……?」 「ん……」 少女は固く口を結び…………一言、ぽつりと言葉を漏らした。 「…………言えない」 「そう、か」 どんな言葉が返ってこようと受け止める覚悟をしていたが、それでもやはり否定の言葉には落胆を禁じ得ない。自然と息がこぼれ、肩の力が抜けてくる。 そんな俺を見かねてか、少女は重い口をゆっくりと開いた。 「———私は」 「莫耶?」 「…… ある人と約束をしている。それが『私の身分を時期がくるまで隠し通す』ということ。その人は、恐らく生涯決して忘れることができぬであろう恩人……。名も知らぬ程度の関係だというのに、彼は……。最後まで私を守ってくれた彼に報いるためにも、この約束を破ることだけは絶対に許されないのだ……!」 悲鳴にも似た声音で最後の言葉を紡ぐ。 それはどのような感情が込められていたのか。 一見、悲しみにも…………怒りにも、困惑にも、恐怖にもとれた。火影によって多くの表情を生み出す能面の如く。 視線を交わすのが躊躇われ、行き場のない目線は宙へと舞った。先には爛々と輝く緑の月。 少女の呟きは拒絶なのか。それともただ意固地になっているだけ? いくら頭の中で自問しても、答えは返ってこない。衛宮士郎の壊れた脳では答えは得られない。 このまま無言を貫けば————。歩む道はいつも通り。少女と楽しく笑いあい、時にはふざけあいながら、満ち足りた日常を過ごすことになるだろう。彼女が言う『時期』とやらが来れば、いつかは俺にも話してくれる時がくるかもしれない。 逆に。 多少強引でも彼女から話を聞けば————。その先にあるものは光か闇か。そこから先は誰も知らない、暗闇に包まれた道を通ることになるだろう。何が起こるか知るすべは無いが……ただ、いつも通りの日常でないことだけは理解できる。 例えどんな辛い困難が待ち受けていようとも、俺は躊躇わない。むしろそれで道が拓かれるのならば、喜んで身を投げ出す所存だ。 だが俺が恐れているのはそういう話ではない。 ————少女を手放してしまうであろう未来について、だ。 俺は……。 Ⅰ:何も聞かない Ⅱ:強引にでも聞く
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488 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/01/01(火) 02 09 28 皆さん、あけましておめでとうございますo( _ _ )o 今年もよろしくお願いいたします! ――――俺達がチョコボの世話を始めて一週間の時が過ぎた。 「クェ~ッ」 「うわ、ちょっとちょっと。困りましたねえ」 柵に遮られた胴体から限界まで首が伸び、巻菜に頬擦りをせがむ。標的となった彼女の頬は羽毛と獣臭と涎に塗れ、滅茶苦茶な有様だ。口では困った風な印象を受けるが、その実満更でもない様子であったりする。何とも微笑ましい光景ではないか。うん。 「よし、やったな! これでお前さんらは一人前のチョコボ乗りだ。今まで一週間、本当によく頑張ってくれた!」 「それじゃあ……」 「ああ。約束のチョコボ乗り免許証だ。これさえあれば各国にある厩舎でチョコボに乗れるようになる。死ぬまで有効な一生モンだぞ!」 差し出されたオヤジのゴツイ手に、3枚の手形が収められていた。もちろん俺達3人の数に合わせて3枚。文句なしの大成功の証である。 「やった、遂に……。ありがとう、おじさん」 「あんた達の努力の賜物さ。少し前までボロボロの毛並みだったコイツも今では立派な色艶を取り戻してきている。人間への恐怖心も大方取り除かれた。まったく、キスしてやりたいよ」 キスは丁寧にご遠慮願ったものの、その代わりに俺、バタコ、巻菜と順々に握手を交わしていく。肉厚な手は温かく、握られた奴は俺も含めて温かい自信が胸の内に広がっていっただろう。 ずっと付きっ切りだったチョコボを見つめる。一週間前までは怯えの色に支配されていた瞳も今では確かな気力が宿されていた。 「シロウ、早速チョコボに乗ってみましょう。この子達の足の速さは評判だから、これまでの遅れを取り戻せるかもしれない」 「そうだな……。よし、行こう。一応聞くけど、2人とも準備はできているよな?」 「もちろん。早く行きましょう」 「んっ、私も大丈夫です。それにこうまで長く一緒に居たのに背に乗れないだなんて、拷問を受けているようでしたから」 ベタついた頬を袖で拭う巻菜をおかしく思いながら、オヤジに騎乗代を払う。解放された柵から3匹のチョコボが前へと進み、俺達を乗せるべく地面に屈んだ。様々な想いを込め、その背に取り付けられた鞍に遠慮なく跨る。すると主の騎乗を確認したチョコボは、大きな身体を上へと伸ばした。長らく滞在していた厩舎とも、これでお別れである。 「これで動物の心を読めるようになれば、獣使いにまでなれるだろう。だがそいつは、俺が教えてやれるものじゃない。訓練だけでは、どうにもならんからな。あとはお前さんの経験次第だ。チョコボに乗る以上、初志を忘れるんじゃあないぞ」 エールには手を振って応える。 新たな旅立ちである。開け放たれた扉から、白い閃光が放たれた。 そして――加速。 「おおおっ!?」 ガクンガクンと上下する振動に合わせ、洒落にならないGが体中に満遍なく加重されていく。それに比例して凄まじい勢いで移り変わっていく景色。風圧がモロに顔面に叩き込まれ、うっすらと涙がこぼれてきた。馬の騎乗経験がないせいかもしれないが、それにしたってこれは予想の斜め上をぶっちぎっている。まさかあの愛らしい鳥にここまでの馬力が備わっているとは! 「おおおあ! バ、ババ、バタコ! そっちの調子はどうだ!?」 「く、う……な、何とか繰り切れてる。私のことより、マキナを見てやって……」 言われてふと巻菜の方へ首を巡らせれば……あろうことか騎乗のキモである手綱を地に放りだし、片方しかない手でチョコボの毛を鷲掴む形で張り付いていた。どこからどう見ても一杯一杯な上に危うい。 ――忘れていた。普段の飄々とした振る舞いから意識せずにいたが、彼女は隻腕だったのだ。この荒っぽさには鍛えられた俺でも苦戦しているというのに、腕力のない彼女ではさながら地獄であろう。 とにかくいてもたってもいられず、手綱に横へ力を加えて何とか巻菜の方へと駆け寄った。 「巻菜! 大丈夫か? もちそうにないか?」 「く……何とか持ちこたえているけど……。でも、これはさすがにきついかな……」 どうしたものか。やはり俺のチョコボの後ろに乗せるのがベストなのだろうが、果たして当のチョコボは2人分の体重に耐えられるのだろうか。馬のようにガッチリした体格ではなく、鳥の頼りない骨格のせいか、どうも判断に困る。 そうこう考えている内に突如として巻菜が乗っているチョコボの走りが減速していった。慌てて俺のチョコボもその速さに合わせていくが、最後には歩く程度の歩調にまで落ちていった。これは一体、何が起こったというのか。 「……? えと、これは……もしかして……?」 「巻菜?」 「あたしを心配して止まってくれた……? えっ? でも、動物なのに……?」 反射的に巻菜を乗せたチョコボの様子を観察する。ぱっと見て怪我などの異常は見られない。それどころか澄んだ瞳の煌きには仮の主に対する誠実さすら感じられるではないか。やはり巻菜の言うとおりに主の意図を汲んでいるというのか。途端、何故だか無性に胸にグッときた。 「賢いんだね、おまえ……。ありがとう。どうにかしておまえを乗りこなしてみせるから。……士郎、悪いんだけどバタコと一緒に先に行っててくれない? あたしは今日中に追いついてみせるから」 「いや、危ないだろ。1人なのに獣人に襲われたらひとたまりもない」 「大丈夫、この子と一緒なら襲われることはないって聞いたことがある。この大陸の地形は全部覚えているからさ、行ってよ」 明確な意思を持った瞳。それは迷惑をかけたくない、微かな意地を込めた眼差し。 このまま置いていくのはやはり気が引けたが、しかしそれ以上に巻菜の意思を尊重したかった。 「……俺達はまずバストゥークに向かうことにする。お前が着くまで出発はしないから。……それとあんまり遅いとさすがに迎えに行くからな。気をつけて来るんだぞ」 「ありがと。すぐ行くから」 僅かに後ろ髪を引かれる思いだったが、思い切って前方を走るバタコへ合流することにする。軽くスピードを上げれば、彼女も異変に気付いて速度を落としていたらしく、すぐに追いつくことができた。 「シロウ! マキナは?」 「すぐ追いつくって。大丈夫だって言ってた」 「ちょっと。それでいいの?」 「いいよ。時に最初の目的地はバストゥーク共和国で構わないだろ? 巻菜にもそう言ってあるけど」 「バス? 私はどっちでもいいわよ。ていうか巻菜にそう言ってあるのなら変える訳にもいかないでしょ! 拒否権なんて最初からないじゃない!」 指摘されてはじめて気付く。続けて自分の身勝手さに思わず苦笑した。 「どうしてバストゥークなのよ? どちらかといえばサンドリア王国の方が近いんじゃないの?」 「いや。以前に世話になった人達がいてさ。色々あってまともにお礼を言わずに出て行っちゃって。前々からきちんとお礼を言いたいなって思ってたんだ」 「何よソレ。お礼なら手紙とか色々方法があるでしょうに」 「げ。手紙って、この世界にも手紙があったんだ。迂闊だったなぁ」 「? よくわからない人」 そうこう言っている間にチョコボは風を引き裂き、周囲の風景があっという間に切り替わっていく。最初は何か果物を栽培している果樹園。次に雨で地面がドロドロになった沼地。木々豊かな草原地帯には、バタコや巻菜と野宿したあの『メアの岩』と同じ外観をした建物があった。そして半年前に罪狩り達とちょっとした逃亡劇を演じた荒野。長い荒野をずっと東へ進んでいくと、見慣れたゲートが目に入ってきた。 「は、速い。まだ出発してから日が暮れてないってのに」 「さすがチョコボと言ったとこかしら。人間の足とは比較にもならないわ。しかも追いつける獣人がいないから無駄な戦闘も起こらないですし」 そう。 この世界では旅をしていれば襲ってくる連中がいるのが必定で、したがって途中で俺達を襲おうと躍起になる獣人の姿も目に入った。とはいえチョコボの足の速さに敵う筈もなく、いずれもまともな競争が成立することなく消え去っていったのだが。 しかしその中には冗談でないくらいに巨大な化け物もいて、チョコボがいなければと思えば内心ヒヤッとすることもあった。 「沼地で見たあのやけに息の臭い多足生物って何? 正直あんな怪物がいるなんて聞いてないぞ」 「それを言うなら私は頭に木が生えた巨大ウーパールーパーの方が印象に残ってるわね。多分、アンタが10人いても勝てないわよ、アレ」 む、言ってくれる。 チョコボの世話をしている時も鍛錬は欠かさず行っていたのだが、強くなれない自分に歯噛みしているのは何より俺自身なのだ。ああっ、早く一人前になりたいっ! 「そういや目的地に着けばチョコボってどうすりゃいいんだ? こっちの厩舎で預かるモンなのか?」 「いえ、そのまま放っておいて。勝手に自分の厩舎に帰っていくから」 言われたとおりに鞍から下りて様子を確かめてみる。そうすれば、なるほど、先程歩んできた道をそのまま辿って帰っていったではないか。本当に頭がいい動物だ。世話をしていた頃から愛着はあったものの、おかげで更なる好意を抱くことができた。 「じゃ、マキナが来るのを待つついでにちゃっちゃと済ませちゃいましょうか。順調にいけば一日で終わるかもよ」 俺達の本来の任務を思い出す。身元不明、もしくは国籍不明の俺達がウィンダス以外の二大強国の市井調査を行うこと。まずは各国のウィンダス領事館へ赴き、その旨を報告。そしてそこでも仕事を手伝わされる可能性があり、その時は速やかにそれを達成すること、か。 「……ん? でもここはバストゥーク共和国で……。待てよ、何か引っかかるな……」 何だろう。改めて条件を振り返ってみると、何か重要なことを忘れているような気がしてきた。国籍不明? 領事館? 仕事?? 「何よ急に立ち止まって。早く行くわよ」 いや、待て待て待て。 第六感が告げている。これは思い出さないとマズイことになる。大分昔のことだというのはわかるのだが、この違和感の正体は一体何なのだ。この喉に引っかかる不安感の正体は、何だというのか――――。 Ⅰ:身元不明、もしくは国籍不明の者 Ⅱ:ウィンダスの領事館に赴くこと Ⅲ:仕事を手伝うこと Ⅳ:でもそんなの関係ねえ! イの一番に知人に会いに行く 投票結果 Ⅰ:3 Ⅱ:0 Ⅲ:0 Ⅳ:5
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